損失とは
通常、入出力のある系に信号を入力したときには、その系の特性に応じた信号が出力されます。
換言すれば、アンプであれば入力信号は増幅され、受動回路であれば減衰した信号が出力されます。
ここではアンプについて考えて見ましょう。
例えば、利得が20dBのリニアアンプ(入出力の増幅度が直線的であるアンプ)では、そのアンプのダイナミックレンジ(これ以上出力すると歪んでくる限界レベル)を超えない限り
Pout(dB)=Pin(dB)+20dB
の関係が成り立ちます。
では、増幅機能の無い系に信号を入力した場合にはどうなるのでしょうか。例えば、同軸ケーブルで信号を伝送する場合を考えて見ましょう。
理想的な同軸ケーブルは、どんなに長距離で信号を伝送しても、入力信号と同じレベルの信号が出力側に出てくることです。
ところが、同軸ケーブルの中の高周波信号は
(1)導体の固有抵抗による熱損失
(2)絶縁体による誘電体損失
(3)シールドの不完全さによる電波漏洩
(4)インピーダンス不整合による反射損失
などいろいろな損失があり、全て無効な電力損失となります。
損失係数Lは
L=(Pout-Pin)/Pin
と定義し、小さいほうが損失は小さくなります。
この式よりアンプの場合と異なり、損失係数はは1より小さくなるため、デシベル換算した損失L(dB)は負の値となります。
損失を減らす理由
損失は少ないに越した事はありませんが、体感的に損失を考えてみます。
例えば、放送局から200MHz、1kWの電力送信をする場合について考えて見ます。
仮に、この電力を3D-2Vの同軸ケーブルを使用してアンテナ迄10m伝送したらどうなるでしょう。
3D-2Vのケーブル損失は1km当たり219dBですから、10mでは2.19dBです。デシベル値を真数に直すと0.6、即ち60%しか伝送されないことになり、400Wは熱になってしまいます。
電熱器を働かせていることと同じですね。
20D-2Vの同軸ケーブルでは1km当たりの損失が41dBと大幅に軽減されますが、10mで0.04dB、これでも約0.9%、9W分は熱になってしまいます。
従って、この場合は出力段とアンテナまでの距離を最小にし、且つ低損失の導軸管などで極限の損失まで持っていかなければ折角、大電力増幅しても無効な電力になってしまう訳です。
今度はアンプの入力段に損失がある場合について考えて見ましょう。
入力段の損失は熱雑音を増加させ、入力信号のS/N比(またはC/N比)をその損失分だけ悪化させます。入力段に固定減衰器を入れたことと同じなのです。
総合雑音指数FTは、アンプ単独の雑音指数F(dB)に損失分L(dB)を加えた値、即ち
FT(dB)=F(dB)+L(dB)
となります。従って、LNA(Low Noise Amp)など低レベルの信号を扱う場合には,入力段の損失を最小にして、信号成分を悪化させないようにすることが重要なのです。
損失計算
損失(dB) | 損失係数 | 減衰比(%) |
---|---|---|
0 | 0 | 0 |
-0.01 | 0.002 | 0.2 |
-0.05 | 0.011 | 1.1 |
-0.1 | 0.023 | 2.3 |
-0.15 | 0.034 | 3.4 |
-0.2 | 0.045 | 4.5 |
-0.5 | 0.109 | 10.9 |
-1.0 | 0.206 | 20.6 |
-2.0 | 0.369 | 36.9 |
-3.0 | 0.499 | 49.9 |
-6.0 | 0.749 | 74.9 |
高周波用語集》
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